ブドウ糖の投与速度 上限・下限

●ブドウ糖(グルコース)投与速度は、GIR: glucose infusion rateで表現する
●ブドウ糖(グルコース)の投与速度の上限は、GIR 5 mg/kg/分
●ブドウ糖(グルコース)の投与速度の下限は、GIR 1.4〜2.0 mg/kg/分

今回は栄養管理を行う上で大切な血糖管理に関連するブドウ糖の投与について書いていきます。血糖値は、正常値 70〜110 mg/dLですので、考えやすく100 mg/dLとします。血液中のブドウ糖濃度をパーセント表示に変換すると、100 mg/dL=1000 mg/Lであるため1L当たり1gとなるため0.001すなわち、0.1%のブドウ糖濃度となります。5%ブドウ糖液は、1L当たり50gのブドウ糖が含まれるため、他の輸液製剤のブドウ糖濃度が血糖値と比較すると高いことがわかります。血糖値が200 mg/dLとなっても血液中では0.2%と考えると高血糖はわずかな変化で起こってしまいそうです。

血液に含まれるブドウ糖よりも高値である輸液製剤である5%ブドウ糖液には、投与速度の上限が設定されています。これは血管内でブドウ糖を処理できる能力には上限があり、高血糖となることを避けるために設定されています。5%ブドウ糖の添付文書には、“点滴静注する場合の速度は、ブドウ糖として0.5 g/kg/hr以下とする”と記載されています。流量に換算すると、5%ブドウ糖液は1mLに含まれるブドウ糖が0.05gなので10 mL/kg/時の投与速度が上限となります。臨床的には、ヒトの糖代謝の速度は、0.25〜0.3 g/kg/時 程度とされているため、0.3g/kg/時より速い投与速度で5%ブドウ糖を使用するときは、低血糖などに対する短時間の投与に留める方が安全です。

ブドウ糖の投与速度は、グルコース投与速度(GIR : glucose infusion rate, 単位 mg/kg/分)で表します。成人における基本のGIRは、5.0 mg/kg/分とされています。成人では、ブドウ糖をGIR>5.0mg/kg/分の速度で投与すると糖尿病の既往のない患者群において約半数で血糖値が200mg/dL以上の高血糖を呈することがあり注意が必要とされています。手術後などは、血糖値が比較的高い外科的糖尿病の状態になりやすいため、4.0 mg/kg/分の投与速度で開始するなど病態により調節します。

GIRの投与速度の根拠となるNutr Clin Pract 1996 (PMID: 9070016)に掲載されたRosmarinらの論文の結果を次に示します。これらの結果は糖尿病の既往がない中心静脈栄養を必要とした患者群において検討されました。

糖代謝の速度 0.25〜0.3 g/kg/時をGIRに換算すると4.17〜5.0 mg/kg/分となりRosmarinらの報告と同じGIRとなります。中心静脈栄養による栄養管理を行っているときに高血糖がみられたら、GIRを計算し、投与速度が適切かどうか判断した上でインスリンの投与を考慮する必要があります。高血糖がみられたら何でもインスリン投与ではなく、適切な投与速度となっているかどうかを先ずは確認して、適切であれば耐糖能異常と判断しインスリンの投与を考慮します。脂肪製剤も血管内での処理能力を超えて投与すると高脂血症となってしまうため、脂質製剤は0.1 g/kg/時の投与速度を超えないように投与しますが、ブドウ糖もやはり血管内での代謝速度を超えない投与が大切です。

次に、ブドウ糖の投与速度の下限はどう考えるべきでしょうか?上限はその副作用として高血糖が起こりますが、下限の確認には、その副作用が低血糖となり、なかなかヒトで試みることは難しいと考えられます。様々な輸液製剤や論文の中で、ブドウ糖の最低投与量について調べていくと、1957年に出版されたJ.L GambleのChemical anatomy, physiology and pathology of extracellular fluidの訳本の“水と電解質”にたどり着きます。

Gambleは、著書の中で経口摂取ができないときに、①エネルギー源、②体タンパク質の異化抑制、③ケトーシスの予防のためにブドウ糖の投与が有効であることを示し、そのときにブドウ糖の最低投与量として、1日100g必要ということを示しました。これらの結果より、体タンパク質の異化抑制、赤血球や中枢神経系のエネルギー供給のために必要なブドウ糖の1日投与量は100g/日、体重換算すると2.0〜3.0 g/kg/日、さらに、GIRに換算すると、1.4〜2.0 mg/kg/分となります。安全を考えると、ブドウ糖投与速度の下限は、2.0 mg/kg/分としておく方が良いかもしれません。

このときGambleが示した結果は、ブドウ糖の投与量を1日50g、100g、200gとしたとき、50g/日のときと比較して100g/日のときの体タンパク質の異化速度が緩やかとなる一方で、200g/日へと増量しても100g/日と比較してそれほど効果が上がらなかったことから、ブドウ糖の最低投与量が100g/日と設定されています。

ブドウ糖の投与が全く行われないときは、1週間で400gを超えるタンパク質を失ってしまいます。これは、100gのタンパク質の喪失が、500gの筋肉を失うことと等しいと考えると、約2kgの筋肉を失ってしまうことになり、窒素死と呼ばれる非常に重症な状態になってしまいます。少なくとも1日100gのブドウ糖を補充することで、タンパク質の喪失を半分程度まで抑えることができることを考えると最低投与量は大切なポイントとなります。

臨床において、最低限のブドウ糖補充を行うためには、1日100gのブドウ糖を投与すれば良いとすると、これを5%ブドウ糖で補充するとしたら、1L当たり50gのブドウ糖が含まれるので、1日2Lの5%ブドウ糖を輸液として補充すれば良いことになります。つまり、体重60kgのヒトの維持輸液量は大体30mL/kg/日、つまり1800mL/日となり維持輸液量分を投与すれば、最低限のブドウ糖投与を行うことができることになります。また、ソルデム3A®のブドウ糖濃度は4.3%でしたので、いわゆる維持輸液と呼ばれる製剤は、1日2000mL投与すればヒトが1日に必要とする電解質などの成分が補充されるように設計されていますが、最低限のブドウ糖投与量もほぼ満たされるような組成となっていますね。

普段、何気なく投与してしまいがちなブドウ糖ですが、静脈栄養、特に中心静脈栄養管理をおこなっているときには、血糖値だけでなく、その投与速度にも注意して管理していく必要があります。

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