- 成分栄養剤は吸収がしやすいものの浸透圧は高いため注意が必要
- エレンタール/エレンタールPは、脂肪の含有が少なく、食物繊維が含まれていない
- 成分栄養剤の調製後は、できるだけ12時間以内に投与するようにする
今回は成分栄養剤についてお話していきます。
臨床で使用される代表的な成分栄養剤には、エレンタール®とエレンタールP®の2つがあります。
これらは、前の記事でもお話したように成分栄養剤は窒素源がアミノ酸となります。これは、三大栄養素のタンパク質に相当する栄養成分がアミノ酸で補充されることを意味しています。
小腸からの吸収過程の最終形態であるアミノ酸となっているため、吸収の際に胃酸や膵液による化学的消化は不要で、吸収能が低下している病態の患者さんでも吸収されやすいといった特徴をもっています。実際にクローン病や短腸症候群などの病態においても吸収能が良いことから使用される頻度が高い栄養製剤です。
何となく吸収能が良いと聞くと他の栄養剤と比較して吸収が速いイメージがありますが、吸収の速さの面からは、ペプタメンAF®などの消化態栄養剤の方が速いとされています。その理由を下に示します。
図に示したように成分栄養剤ではアミノ酸まで分解されているため吸収はアミノ酸がひとつ、またひとつと吸収されていくことになります。そのため吸収されやすいものの、吸収には時間がかかってしまいます。一方、消化態栄養剤の窒素源は、ジペプチドやトリペプチド、それぞれ2個、3個のアミノ酸で構成されていますので、2個、3個のアミノ酸が同時に吸収されていくことから、消化態栄養剤の方が速く吸収されると考えられます。いずれの製剤も吸収能が低下している病態に適していることには変わりません。
エレンタールとエレンタールPの成分表を示します。この表から読み取れるポイントとして2つあります。それは、脂質の含有がいずれも少ないこと、食物繊維が含まれていないことの2つになります。ひとつめの脂質の含有が少ないことですが、エレンタールPは脂質が総カロリーの8%ほど含まれていますが、エレンタールに至ってはわずか総カロリーの2%の必要最低限の脂質しか含まれていません。これは長期間の使用の際には注意しなければならないポイントとなります。脂質はエネルギーとなるだけでなく、脂質に含まれる長鎖脂肪酸は細胞膜やステロイドホルモンの合成に必要な脂質でヒトが体内で合成できないものです。長期間投与の際には脂質欠乏症状が出てきてしまうこともまれにあります。一方、脂質が少ないため、膵炎罹患時の経腸栄養開始時や膵臓疾患術後の栄養開始時に選択しやすい製剤となります。
もうひとつ、食物繊維が含まれていないことも栄養管理を行う上で大切なポイントとなります。食物繊維は、消化管において重要な働きをしています。食物繊維が小腸粘膜を刺激し、小腸の微絨毛をいつでも栄養成分を吸収できるように正常な状態に保っています。小腸粘膜下には免疫で重要な役割をもつGALT(消化管関連リンパ組織)を構成するパイエル板と呼ばれる領域があり、免疫能を正常に保つために重要な役割を担っています。小腸粘膜が萎縮してしまうとこれらGALTへの影響などにより免疫能への影響がみられます。
大腸においては食物繊維により腸内細菌が刺激されオリゴ糖などと共に利用(発酵)されることで、短鎖脂肪酸が産生されます。短鎖脂肪酸は大腸粘膜の重要な栄養成分となり、大腸粘膜や大腸内環境を正常な状態に保つ働きがあります。このように食物繊維は小腸、大腸において、免疫能の維持、消化管のintegrity、つまり消化管らしさを保つ重要な働きをしています。栄養に関する論文でよく消化管の“ integrity ” という表現が用いられますが、しっくりくる日本語訳はなく、辞書で調べると、完全(な状態)、品位などと訳されます。結果的には、消化管らしさや、消化管の完全な状態といった訳し方になってしまいますが、消化管をそのままの良い状態に保っているイメージで訳すのがわかりやすいと思います。
成分栄養であるエレンタールを使用しているときは、お腹に優しいイメージがあり、下痢とは無縁な印象があるかもしれません。しかし、その浸透圧は下記に示すように意外に高く、1.0kcal/mLの濃度で作成すると浸透圧は761mOSm/Lとなり、血漿浸透圧との比較である浸透圧比も2.67となります。浸透圧が比較的高いので浸透圧性下痢のリスクはあり、添付文書の副作用にも、5%以上で下痢がみられると書かれています。そのため投与開始時には、溶解は薄めて(0.5kcal/mL)開始し、消化管の馴化を確認して濃度および投与速度(10〜20 ml/時から開始)を上げていく方法が下痢などのトラブルが少なくエレンタールを用いた栄養管理を行うことができます。
販売会社のエレンタール®のインタビューフォームにある浸透圧はmOsm/kg表示となっており、溶液1000gの浸透圧表記となっています。いつも思うのですが、栄養製剤の浸透圧表記は、水分1000mLでの浸透圧表記であるmOsm/Lに統一してもらいたいものです。換算式は下記の通りです。
次に成分栄養剤の投与時に注意するポイントについてお話します。溶解された成分栄養剤は、6時間以降になると細菌の増加が確認される始めるため、エレンタール®の添付文書には次のように書かれています。“本剤は用時、常水又は微温湯に溶解して調製するが、調製後12時間以内に使用すること。”この根拠として、インタビューフォームに調製後の細菌の増加の表が掲載されていますので、下記にエレンタール®のインタビューフォームからの引用図を示します。
この表をみると6時間後から細菌数が増加してくることがわかります。一般的に、飲料水における一般細菌数は1ml中に100個以下と定められています。この理由は、コロニーを形成する菌数が100個以下の水によってコレラや腸チフスなどの感染症が発症しないことが理由とされています。栄養製剤も飲料水と同様に消化管に投与されるものですので、細菌数が100個以上となると腸管感染症のリスクとなりますが、100個、つまり102個以上となるのは、26℃前後の院内環境では調製されてから12時間以上経過してからとなります。これが添付文書の12時間以内に使用の理由と考えられます。
臨床での使用としては、エレンタールを調製後、使用分のみ室温とし残りは冷蔵庫での冷所保存を行い、6時間以内に間欠投与するか、24時間持続投与中であれば12時間毎に交換するなど交換時期を決めておくのがいいかもしれません。
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