輸液製剤と浸透圧比

  1. 有効血漿浸透圧(mOsm/L) = 2 ✕ Na + 血糖値/18
  2. 末梢血管から投与できる浸透圧の上限は、浸透圧比で“3”
  3. 静脈内投与、消化管内投与のいずれにおいても基準となるのは、血漿浸透圧

栄養管理において、輸液について知ることは大切で、普段使用している製剤について、自分があまりにも無頓着であったことに気がついた。急性期の輸液療法は、蘇生輸液にはじまり、維持輸液へと推移していくが、一体、循環動態を支えるにはどのぐらいの輸液量が適切か、どの輸液製剤がベストなのか、ある程度のコンセンサスはあるものの未だ明確な答えがない状態である。

普段使用している輸液製剤を羅列し、電解質、特にナトリウム(Na)の含有量で分けてみた。生理食塩水のNa 値 154 mEq/Lから5%ブドウ糖液のNa値 0 mEq/Lまでと幅広い。ナトリウムは血漿浸透圧を決定する重要な因子であるとともに、上昇、低下それぞれにおいて意識レベル、循環動態への影響が大きい重要な電解質である。

教科書に記載されている血漿浸透圧を決定する式として

血漿浸透圧(mOsm/L) = 2  Na + 血糖値/18 +BUN/2.8

*BUN 尿素窒素

上記の式をよくみかけるが、BUNは血管壁だけでなく、細胞膜も通過してしまうため水分の移動に影響する浸透圧をつくり出すことができない。すなわち、“張力”、言い換えると有効血漿浸透圧を考えるときには、下記の式が用いられる。

有効血漿浸透圧(mOsm/L) = 2  Na + 血糖値/18

つまり、この式からも明らかな様に有効な浸透圧への影響力が大きいものは、ナトリウムと血糖値である。血糖値もまたナトリウムと同様に高血糖、低血糖いずれの状態においても意識レベルに影響を与えるため、これら2つの因子は中枢神経系への影響が大きく臨床において重要である。Naの前の係数“2”であるが、NaはNaClとして血管内に投与されると、Na+とClのそれぞれ1価のイオンに分かれる。浸透圧には、イオンの数が影響するためNaとClは同数のイオンに分かれることからイオンの数はNa値の2倍となる。ブドウ糖やアミノ酸は電解質のようにイオンとはならないため、浸透圧とモル濃度は同じであり、血糖値(mg/dL)を分子量180で割ったものを、dLとLの単位調整のため、✕10したものが浸透圧の一部となる。

浸透圧は、栄養管理において注意しなければならない大切なポイントである。血管内に投与する輸液製剤の選択において、最初に末梢血管から投与可能な浸透圧なのか?中心静脈から投与しないといけない浸透圧なのか?を判断する必要がある。また経腸栄養においても、腸管内に投与される栄養製剤の浸透圧は重要で、浸透圧が高いと下痢になる頻度も高くなる。

静脈内投与、消化管内投与のいずれにおいても基準となるのは、血漿浸透圧である。静脈内投与は血漿浸透圧が基準となるのは理解しやすいが、腸管内投与される製剤も血漿浸透圧が基準となるのは理解しにくいかもしれない。消化管内に投与された栄養は、小腸で分解・吸収され最終的には静脈(門脈)、リンパ管内に移行していくため、消化管内に投与される経腸栄養製剤においても血漿浸透圧が基準となる。

血漿浸透圧の正常値は、285 ±5 mOsm/L

末梢血管から投与できる浸透圧の上限は、浸透圧比で“3”とされている。血漿浸透圧と同じ浸透圧であれば浸透圧比“1”となるため、浸透圧比3の浸透圧は、840〜870 mOsm/Lとなる。これ以上の浸透圧をもつ輸液製剤を末梢血管から投与すると、血管痛・血管炎・血管外漏出が起こり様々な合併症を引き起こす可能性がある。この浸透圧比3を超える輸液製剤を使用するときには中心静脈からの投与が必要となる。

経腸栄養においても、市販されている多くの経腸栄養製剤は、浸透圧が 280〜700 mOsm/Lの範囲にある。すなわち、血漿浸透圧との浸透圧比で表すと、浸透圧比 1〜2.5の範囲にある。腸管内に投与される製剤においても、血漿浸透圧が基準となるように設計されており、末梢血管に投与できる浸透圧の上限とほぼ同じ範囲内となる。

血漿浸透圧と同じ浸透圧の製剤は、等張液と呼ばれ、製剤の浸透圧比は“1”である。等張液には、5%ブドウ糖、生理食塩水、乳酸リンゲル液などが含まれる。ここで5%ブドウ糖が等張液であることを実際に計算してみると。次の様になる。

5%ブドウ糖1 Lには、1000ml ✕ 0.05 = 50gのブドウ糖(グルコース)が含まれる。浸透圧はモル濃度の計算から始めるとわかりやすい。まずモル濃度mol/L =溶液1L中の溶質のグラム数/溶質の分子量)に変換すると、ブドウ糖(グルコース) 50gを、ブドウ糖(グルコース)の分子量 180で割ると、50g/180=0.278 mol/L。通常、mmol/Lで表示するので、0.278 mol/L ✕ 1000倍 = 278 mmol/L。mmol/LをmOsm/Lに換算する式は、mOsm/L = mmol/L  粒子の数であり、ブドウ糖(グルコース)はイオンのように電離しないので粒子の数は変化しないため、278 mmol/L= 278 mOsm/Lとなる。結果、5%ブドウ糖は血漿浸透圧 280-285mOsm/Lとほぼ同じということがわかる。

次に、生理食塩水を同様に計算していくと、生理食塩水は、濃度が0.9%であり、1L 中に9gのNaClが含まれている。まずモル濃度を計算すると、9g÷NaClの分子量58.5=0.154mol/Lとなり、mmol/Lに単位変換すると、154mmol/Lとなる。mOsm/L = mmol/L 粒子の数の式を当てはめると、NaClは電解質であるためNaとClに電離して粒子の数が2倍となるため、mOsm/Lへの変換は、mmol/L ✕ 2=154 ✕ 2 = 308 mOsm/Lとなる。若干、血漿浸透圧よりも高値にみえるが、NaClは血管内に投与されたとき、85%程度が電離するため、308 ✕ 0.85 + 154 ✕ 0.15 = 284mOsm/Lとなり血漿浸透圧と同じ値となる。

浸透圧を考えるときには様々な計算式が出てくるが、モル、モル濃度、ミリ当量、浸透圧を実際に自分で計算してみると理解しやすくなる。浸透圧がmOsm/Lではなく、mOsm/kgH2Oと表記されているときがあるが両者はほとんど差がなく、基本的に浸透圧は、mOsm/Lで表記される。Osmometerを用いて測定したときは、mOsm/kgH2Oの表記となる。

経静脈内投与、経腸投与の製剤選択の際には、電解質・ブドウ糖濃度だけでなく、浸透圧比にも注目して選択する必要がある。

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