UnderfeedingとOverfeedingの間

  1. 投与カロリーが安静時エネルギー消費量の70%のとき、60日死亡率が最低となった
  2. 摂取タンパク質が、1.0g/kg/日を超えると60日死亡率が低下する

集中治療室(ICU)患者の最適なエネルギーとタンパク質の摂取量については様々な議論が行われてきました。しかし、ほとんどの研究では、目標エネルギー摂取量の設定に、不正確な予測式が用いられてきました。

ICU患者の大規模集団において、投与カロリーを安静時エネルギー消費量(REE rest energy expnditure)で割った値(% AdCal/REE)、およびタンパク質摂取量と60日死亡率との関連について検討された研究があり(PMID: 27832823)、ICU患者の必要カロリーを考える上でとてもわかりやすいのでご紹介します。

対象は、2003年から2015年に16床の大学病院ICUに入院した患者で、間接熱量計(IC)により目標エネルギー摂取量を設定されていました。% AdCal/REE とタンパク質摂取量のそれぞれと60日死亡率との関係を調べた研究です。

結果、合計1171人のICU患者が組み入れられ、投与カロリー/安静時エネルギー消費量の割合(%AdCal/REE)は、60日死亡率と有意な(p<0.01)相関を示しました。相関関係は、U字型の曲線を描き、%AdCal/REEが70%となるときが最も低い60日死亡率となりました。

つまり、投与カロリーが、安静時必要カロリーの70%程度が投与できれば予後には良い効果があると考えられます。

%AdCal/REEが0%から70%に増加すると、ハザード比(HR)は0.98(CI 0.97-0.99)で死亡率の減少を示唆しましたが、%AdCal/REE が70%以上を超える増加はHR 1.01(CI 1.01-1.02)となり、死亡率の増加が示唆されました。%AdCal/REEが100%を超えるとHRは1より大きくなり有害であることが示されました。

タンパク質摂取量の増加もまた、死亡率の低下と関連していました(HR 0.99, Cl 0.98-0.99, p = 0.02)。1日のタンパク質摂取が1g増加するごとに死亡率が1%低下することが示唆され、目標タンパク質摂取量を、1.3g/kg/日と設定しその達成割合と60日死亡率との相関関係をみても、タンパク質の摂取量が75%、つまりは1.0g/kg/日を超えると死亡率が低下する結果となりました。

この研究の結果から、低栄養 underfeedingと過栄養 overfeedingのいずれも重症患者においては有害であることが示されました。したがって、目標カロリーを設定するのに最適な方法は、理想的には間接熱量計により測定した投与カロリー目標値が良いと結論付けていますが、実際には間接熱量計を用いるのはハードルが高いですよね。

実際には、間接熱量計を用いた栄養管理を行っている施設は日本では多くないと思います。実際に、私自身も短期間しかICを使用したことがないです。ただ、この研究の結果から、1171名のICU患者の生存例 846名の投与カロリーをみていくと、Harris-Benedict REE(HB式REE)で設定された目標カロリーは、2304 kcal (SD 468kcal)、普段の臨床でよく使用される25 kcal/kg/日 REEは、2019 kcal(SD 542kcal)となった。この研究で間接熱量計を用いたREEは、1944 kcal(SD 495kcal)であった。この70%が60日死亡率を最も低下させるので、IC REEの70%、つまりは1944✕0.7=1360kcal、HB式のREEの70%、2304kcal✕0.7=1612kcal、25kcal/kgのREEの70%は、2019kcal✕0.7=1413kcalとなります。

ICの結果と簡易式の25 kcal/kg/日の差が、50kcal程度と考えると、毎日の実臨床で用いる目標投与カロリー25 kcal/kg/日はあながち大きくは間違えていないのかもしれません。この研究では、最初のREE測定がICU入室後35時間程度で行われていることを考えると、手術を受けた患者であれば、大体ICU入室3日目、術後2日目になるので1300 kcal/日のカロリー投与は重症患者においては若干大変な気がしてしまいます。

心臓血管外科術後であれば、除水を開始している段階で、1300mLの水分負荷(正確には、投与された経腸栄養製剤の80%前後が水分)は少しためらってしまいます。重症心不全では栄養投与で血圧が低下したりすることもあり、ICU入室後7日目までに、このカロリー目標に達するような管理が普段の臨床に近い印象です。しかし、この研究は、重症患者における栄養管理の具体的でわかりやすい目標が示されているため、個人的にはとても好きな論文で示唆に富んでいると思います。

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